頭の中の全てが吹き飛んだ。
先代珠祭当主、珠祭四音。
無二の友。
救えなかった主。
二度とまみえるはずのなかったその人がそこにいた。
茜が最後に見た記憶のまま、寸分違わぬ姿でそこにいた。
「四ぃいいい音んんんんっ!!」
気付いた時には感情の爆発に任せて駆け出していた。
雛子の事も、九音の事も頭の中から消え去っていた。
殺す。
殺す。
こいつは、『今度』こそ殺す。
全身全霊の膂力を持って、この鬼を打ち倒す。
二十年、ずっとこの日がくればいいと思っていた。
今一度、この鬼を地獄に叩き落す日を夢に見ていた。
来るはずなど無かったこの瞬間。
蘇るはずが無かったこの鬼が、今眼前にある。
ゆえに、今。
一片の余力も残さず、こいつを殺す。
茜の頭の中は、ただそれ一つだけだった。
「コロシテヤル」
しかし、
「茜」
耳の側で、甘く蕩ける蜜のような声で四音が囁く。
振りぬいた拳を柳の葉のようにひらりと避けて、彼女は茜の懐に入っていた。
「っ!?」
「変わらないわね」


