呪イノ少女、鬼ノ少女

「随分と濡れてしまった」


男はそんな言葉と共に、突然の二人の前に現れた。

大きい。

痩身も相まってか、実際よりは少し高く見える。


その容貌に覇気は感じられず、瞳は虚ろ。

顔の右半分には、彼の右の目を潰し、大きく縦に走る傷痕。

残った目玉は黒く、穢れた色に濁っており、その焦点はどこに合わされているのか、まるで掴めない。


ポタリポタリと滴を垂らし畳を濡らす濡髪は、まるで雪を被ったかのように白い。

時期はずれの黒いコートを羽織、右手には布の袋に詰められた長い棒状の何かを持っていた。


雛子は直感的に、それを刀だと見抜いた。

同時に危険を悟り、固まる澪を背中に隠すように体をずらす。


「失礼ですが、どちら様で?ここは珠祭家当主の屋敷。許可なき侵入の理由の如何によっては、相応の行動をもって応じますが」


口上こそ滑らかだが、雛子にははっきりと焦りの色が浮かんでいる。

それは澪にも、分かった。


この男は、普通じゃない。

そして、同じくらいあの手に持った『刀』は普通じゃない。


「いや、失礼。俺の名は天草黒丞という。ここには、其処の娘の命を頂戴しに参上した」


恭しく、だが不遜に一礼をした男に、やはりと雛子は僅かに息を飲んだ。

天草黒丞の名前に、身体の筋肉が強ばる。

頭の中では、警戒のサイレンが最大ボリュームで鳴っている。


「あなたが。お噂は伺っております」

「光栄だな、九曜の娘」


天草が一歩踏み出す。

それに合わせるように、雛子も一歩下がる。