第一章 【王子降臨】
 
『時給千五百円のバイトがあるんだけど一緒に面接受けようよ。』  
いとこから電話で誘われた。

その当時、私は着ぐるみのショーのバイトをしていて、日給が六千円だったから、儲かりそうだし一緒に受ける、面接を即決した。

仕事はアニメやゲームのコスプレをして、古本や同人誌や古い玩具を売る店の店員だった。
衣装は、自前だからその分時給が高いと店長に説明を受けた。

記したように私は見た目が良かった、家系だろうかいとこも美人だった。

当時、私は十八歳で芸術系の専門学校生だった。
学校が終わった夕方から八時の閉店まで働くことになった。


そこに、男性のコスプレ店員が一人いた。名前は剣塚鋼(けんづかはがね)と言った。
さすがに、本名じゃ無いだろうと思ったら本名だった、そんな名前アニメみたいだと思った。

ある日、女性更衣室で衣装に着替えていた時に他の店員の子が、ときめき交じりに言った。

『鋼くんやっぱりすごくかっこいい。顔ちいさいし、すごい足が長い、初めて近くでみちゃった。』

特に、好みのタイプじゃなかったので、名前はすごいなと思ったけど、顔もスタイルも全く見ていなかった。

「なに?鋼君ってそんなに有名なの?」

私の問いに先ほどの店員の子が目をキラキラさせながら答えた。

『うん、コミケとかコスプレですごく有名だよ。コスプレ界の王子と言われてるの。』

やはり王子に興味がなかった、魔王の方が好きだと思った。

『ふーん。今度じっくり観察しちゃおう」私は笑いながら、手で目を見開いてみせた。

『藍衣(あい)目玉落ちそうだよ』いとこが大笑いした。

『藍衣ちゃん面白い。見た目と違う。なんか意外。』

私は、かなりサッパリした冗談が好きな女だった。
見た目は、大人しくかわいい感じの印象。
中身には熱血や好奇心や面白い事や、夢が詰まっていた。
いつも、何かに興味を持って新しい興味事を探している女だった。

だが、旨い料理を作り、誰彼かまわず世話を焼く。
男女問わず差別せず親切にしたりする、見た目と合致する部分も持ち合わせていた。
妙な博愛と正義と、何にでも飛び込む大胆な勇気が混在している、変な女だったと思う。

バイト開始から、四日位経った頃だ。
その日まで、鋼くんとは挨拶位しかした事がなかった。
お互い興味がなかったのだろう、私はインディーズバンドのヴィジュアル系ギタリストに恋をしていたし、鋼くんには当時二年ほど付き合った彼女がいた。

バイト先の仕事は
店内をラウンドして在庫が切れた本を補充する係
受付1階と2階に1人づつ
クローク兼レジ1階と2階に2名づつに分かれていた。

私は、受付をする事が多く、鋼くんはクローク兼レジを担当する事が多かった。
クロークにお客様のお荷物を持って行った時くらいにしか、顔は合わせなかった。
その日は、病欠が多く店員の人数が少ない日。
クローク兼レジに入っていた、いとこに休憩を取らせる為に部署交代しに行った。

『藍衣、鋼ちゃん住んでるところ、藍衣と同じ駅なんだって。』
交代時に、いとこが知らせてきた。
『へー、中井草?』
私が鋼くんにそう聞くと
『うん・・・そう。』と顔も見ずぶっきらぼうな、低い声で返事がきた。

そのまま、いとこは休憩に入り私は、クロークレジで鋼くんの横に並んで、
本の袋詰め作業を始めた。
『・・・。』しばらく沈黙が続いた。
気まずかったのだろう鋼くんが話かけてきた。
『どこの何丁目に住んでんの?』

急に言われて、何のことだか一瞬わからなかった。
『え?・・・ああ住所ね、中井草3丁目』

『ぅえ!!俺も!』初めて顔を上げて目が合った。
おそらく初めて、鋼くんもちゃんと私の顔を見たのだろう。

人の顔を見るなり、口元に縦にこぶしをあてて、少し耳が赤くなったような気がした。
私は、笑いながら『すごい偶然だね。』と返した。

元々、結構しゃべる性格だったんだろう、そこからは低くぶっきらぼう声ではなく
明るい、王子たるゆえんの笑顔で、楽しそうに話しかけてきた。

ほー、確かにきれいな顔してるなー。
芸能人とか、モデルでもいそうな感じ・・・確かに女子はときめくかもね。
と言うのが、初めてちゃんと見た鋼くんの顔面偏差値の感想だった。

『実家?それとも一人暮らし?』
共通項を探してくれようとしてくれているのだろう、鋼くんが質問してきた。
私『実家。』
鋼『へー俺も、実家。』
私『あれ、じゃあ小学校一緒なんじゃない?』

私・鋼『梅5小!!』
息ぴったりに小学校の名前を言った。
私は、王子の後輩だったのだ。
その後、中学校はどこだとか、近所の小料理屋のキャベツの姿煮がおいしいとか
地元ネタで盛り上がった。

 ある日、私は朝から頭痛だった。
めったにないので、おそらく生理がくるとか、ホルモン系のリズムが崩れているのかな?
などと考えていた。
でも、とりあえず学校に行き授業を午前受けた。
昼は、カフェテリアでぐったり過ごした。
午後は、先生の急病で自習だったので、とりあえず授業中に提出する課題3枚を早々に描き上げると、予定より早く13時にはバイトに向かった。

『丸山さん、午後の授業無くなったから早く来ちゃったんだけどいいかな?どこか入れるところある?』
バイトのシフトや配置を管理している、丸山さんに言うと。

『藍衣ちゃん!いいところに来てくれたよ!ちょうど休憩を回すのに手薄になると思って困っていたところ。タイミングバッチリ!じゃあいとこの結衣ちゃんと交代してきて2階のレジね。』
丸山さんは、元気で温厚ないい人だった。
早くいくと急なのに、歓迎してくれるところもありがたかった。
                
2階のレジに行くと、鋼くんといとこがレジで袋詰め作業をしていた。
いとこ『あ!藍衣今日は早いね?どうしたの。』
藍衣『午後の授業がつぶれたから、早く来たの。結衣ちゃん休憩だってさ交代に来た。』
結衣『ありがとー、お腹すいたよ。なんか顔色悪くない?』
いとこにハグされる。
藍衣『朝から頭痛なんだよね。』
結衣『そんなんでバイト大丈夫なの?』
藍衣『まぁ、そんなひどくないから頑張るわ。』
いとこは、頭をなでると休憩しに去って行った。

その日、結局頭痛は治らず、閉店後の掃除が終わって雑談をいとこと鋼くんとしている時だった。
結衣『鋼ちゃん、藍衣と家近所なんでしょ?藍衣送ってあげてよ。体調悪いんだし。』
鋼『え・・・、まぁいいけど。わかった送る。』
嫌そうだなー?おい!と正直思うような雰囲気だった。

藍衣『え・・・帰りどっか用事とかないの?悪いからいいよ。』
嫌そうなのに、押し付けられて気の毒だなと思ったから断った。

鋼『特に何もないし、頭痛いんでしょ?同じ駅だし送るよ。』

さすが王子、女の子が困っていたら放っておかないんだな。
『優しいんだね』と、感心した。
しかも、鋼くんは身長が180センチ、手足がやたらと長くスラっとしている。
頭や顔も小さい、目は優し気な二重で、鼻は高く、口は口角が上がっていてちょっと大きめで
ハーフのような顔をしていた。

以前、たまたま担当が一緒だった時だった。
私は、前々から鋼くんの髪の毛の色がきれいだなと思っていた。
何色で、どこの美容院でどうやってオーダーしたんだろう聞くことにした。

『髪の毛すごくきれいな色だね。ミルクティーみたいな色』
と私が言うと、『そう?ありがとう地毛なんだ。』と言われた。
『え?!本当にすごいうらやましい!』
これが地毛はかっこよすぎる!と思った。

王子スマイルで、キラキラオーラを纏いながら
『おれ、ドイツと日本のハーフなんだ。』と鋼くんは言った。

『あ!ハーフね・・そっか、なるほど。』
私が、妙に納得するとククっと笑い出して、初めて私の顔を見た時と同じしぐさで
『嘘だよ、冗談。残念ながら純日本人でした!』と言われた。
馬鹿正直な私は、まんまと騙されたのだった。
騙されるほどに、顔がハーフぽかったのである。

でも、その一件からそれなりに話したりするようになったので、おそらく鋼くんの中の警戒心はそこで薄れたのだろう。

頭痛の日、初めて鋼くんと一緒にバイトから帰宅した。
バイト先から、私が住んでいる中井草駅に帰るには、一回乗り換えが必要で
1時間ちょっとかかる距離だった。
鋼とは、コスプレ歴やどんなコスプレをしたことがあるのか、ゲームは何をプレイするのか
漫画はどんな漫画を読んでいるのか等多くはないがぽつぽつと話した。

駅に着くと、『どっちの方?』と聞かれた。
駅前は右に行っても左に行っても帰れるのだが、右は文房具屋等があり左は大きなスーパーの前を通る道だった。
スーパー側は、夜は暗いので、私はなるべく文房具屋側の広くて街灯が多い道で帰っていた。
『文具屋の方に出て、お団子屋の横の通り入っていくの。コンビニの裏の道なの。』
鋼くんは、ちょっとびっくりした顔をして。
『本当に同じ方面なんだな・・・。』と言うと歩き始めた。
私も、鋼くんに並んで歩き始める。
『光洋(文具屋)って品揃えいいよね。街の文具屋なのにかわいいのがたくさんあるし何でもそろう。』
何を話していいのかわからないから、とりあえず地元の店ネタでつないでみた。
『そうだね、小さい駅のわりに店が全部便利なんだよな。』と普通に話せた。

お団子屋と言われている、和菓子屋の横の通りを入り、前に話した小料理屋の前を通る。
八百屋を左手に通り過ぎて一本道を渡って路地についた。
あとは、コンビニまで徒歩2分ほど。

コンビニの裏の道に入る所までつくと、その裏道は袋小路になっている。
『送ってくれてありがとう。家があの突き当りなの。』
鋼くんは、ニコッと王子スマイルをすると
『あ、じゃあまた明日。』と手を振って元来た道を戻って行った。
戻って行くあたり、本当に駅から私の家までの間に自宅があるんだな。
と何やら、また申し訳なく思った。

 頭痛がきっかけだったのか、定かではないが、その後なぜか
バイトの帰りは、鋼くんと一緒に帰っていた。

ある日、八百屋を通りこした路地で、いつものように『じゃあ、俺こっちだから。』
と別れる時に、『そうだ、ねこ見ていく?』と誘われた。

私も、鋼くんもねこ好きでねこを飼っていた。
電車での話で、ねこ最高説を話して盛り上がった。

『みたい!』語尾にハートがつくような声が出てしまった。
ねこだ!ねこ!ねこ見たい!と心の中で小躍りを踊っていた。

口元に縦にこぶしを当てて、ククっと笑うと鋼は歩き出した。

路地を曲がり、2件ほど先の平屋が鋼くんの実家だった。

ギャップが・・・。
とちょっとびっくりする位、王子じゃない純和風の古い家だった。

『イメージと違うでしょ。』笑いながら、鋼くんが引き戸をガラっと開ける。

きっと今まで、自分のイメージと家のギャップをわかっていて
家の詳しい場所を教えなかったのだろうと思う。
家は、サザ〇さんの磯〇家のような家で、しかもとても古かった。
私は『おじゃましまーす。』と玄関に入った。

玄関を入ってすぐ、『ただいま。』と鋼くんが声をかける。
テレビの音が奥から聞こえるが、だれも出てこないし返事はなかった。

玄関を上がって、すぐ右のふすまを開けた部屋が鋼くんの部屋だった。
やはり、古い・・・建具が低いから背の高い鋼くんは頭をぶつけそうだった。
しかも、絶対に万年床だろうと言う布団が敷きっぱなしだった。

『ジャーンここが俺の家と部屋です!ぜんぜん王子じゃないでしょ。』
と鋼くんがおどけて言った。

潔い!
彼は自分が王子と言われている事を知っていたんだ。
ギャップをわかっていないと、心の中で苦笑いしていたのかもしれない。

カッコつけていない所が、『王子』が好みじゃない私には、逆にキュンと来た。
『別にそこまでイメージしてなかったけど、ちょっと意外って思ったのは認める。』
私は、素直に笑いながら認めた。

ネコは、鋼くんの部屋の押し入れに寝ていた。
ドラ〇もんか?!と心の中で突っ込んでおいたけど、ねこはかわいかった。
ねこは【四季(しき)】と言うミケねこと名前をおぼえていない、オスねこの夫婦だった。
四季は、キャシャで小さめなねこだった。

うわー!かわいい!かわいいー。
心で盛大に叫びながら、のどや頭を撫でる。

その私を見ながら、目を細めて王子スマイルで穏やかに
『本当にねこ大好きなんだね。撫で方でわかる。』
と鋼くんが言った。

もしかして、話を合わせているとか思われていたのかな?
私にとって鋼くんは特に、恋愛対象では無いから下心なく仲良くしていた。

だけど、きっと彼の周りには彼を特別視して憧れている女がたくさんいる。
しかも、『寄ってくる』のだろうな、と思った。
私は、ADHDのせいで気が利かなかったりはするが、察する事には長けていた。

『四季ちゃんかわいいねー。たまらん。』と緩み切った顔でねこを撫で続ける私を、
鋼くんはただずっと見ていた。
しばらくして、カバンからペットボトルのお茶を出して飲む。
そのあとで、四季をヒョイと抱っこするとしばらく撫でて
手の中できゅっと丸めて、『ねこ爆弾!!!』と私に投げてきた。

両手足を広げて、万歳のポーズで四季が目の前に飛んできた。
『きゃー!!!!って!にゃんこかわいそうじゃん』
ねこ爆弾なんて初めて見た、かわいいし、かわいそうだし色々入り混じって笑いが止まらなかった、笑いすぎてお腹が痛いくらいだった。

その日を境に、鋼くんの私に対する態度が変わった。
前は、少し遠慮して女の子扱いだった。

最近は、すれ違いざまに気軽に色々と話しかけてくる。
ちょっかいを出して、からかわれるようにもなった。
彼女との事を相談されたり、自虐っぽい失敗談も話してくれるようにもなった。

いつものバイトの帰りの電車で、おすすめの漫画の話で盛りあがる。
ちょうど、私は原作を読んだことがなかったが、最近映画になったので
気になっている作品の話だった。
『おれ、今出ているのは全巻持ってるから、貸そうか?』
帰りに漫画を借りて帰る事になった。

『あ!そうだ、来週日曜におれのコスプレ友達と飲み会があるんだけど、藍衣ちゃんも来ない?』
鋼くんのコスプレ友達か、見てみたいし友達が増えるかも。
私は、飲み会に行くことにした。

いつもの、お別れの路地を鋼くんの家の方面に一緒に曲がり
玄関に着いた時だった。

ガラッと引き戸が開いて、肩までの軽い巻髪の女性が出てきた。
『あれ?!あーこ・・・。』

女性は、私と鋼くんを見て
『お帰りなさい、はーくん。』と言った。

鋼くんは、私を一度振り返った後に、女性に向かって
『あーこ、この子は藍衣ちゃん。前に話したバイト先が一緒のご近所さんだよ。』
と紹介した。
『それはそれは、はーくんがいつもお世話になってます。』と言われた。
あ!もしかして彼女か?
これはいい気持ちしないんじゃないかな・・・、と私は感づいた。

『初めまして、鋼くんの彼女さんですか?ご近所さんです。よろしくお願いします。』

鋼くんは、玄関に入って行き『ちょっと待ってて、漫画持ってくるから。』と言うと中に入った。

『今日は、漫画を借りて帰る事になって家の前まできました。』
と言うと
『そうなのね。』とにっこりと笑う。

私は、男女関係なく女性でもかわいい人と綺麗な人は好きだった。
はー、可憐な人だなぁーとほっこりした。
でも、彼女の方は胸中穏やかじゃないだろうな・・・申し訳ないなとも思った。
さっさと漫画を借りると、『大変おじゃましました!』と早々に家路に着いたのだった。

その週も、バイトの休憩時間が重なると、恋愛相談をされた。
今日は、コスプレ友達との飲み会の日だ。

『あーこは、おれと同じ歳なんだよね。そろそろ結婚したいらしくてさ・・・。』
鋼くんは、23歳だった11月に誕生日で24歳だとも言っていた。

『でも、男の人の場合まだ23歳じゃ結婚はしたくない人が多いよね。』
と私が答えた。

『その通りなんだよね、今後の付き合いをちょっと考えちゃうんだ・・・。』
と困った顔で、鋼くんはうつむいた。
彼女の事は、好きなんだろう、でも今すぐ結婚となると答えが出せないんだろうね。
微妙な、男心だね。

『付き合いを続けるつもりなら、正直に気持ちを話した方がいいんじゃない?』
彼女に、期待させるよりちゃんと『好きだけど今は無理。』と言った方が彼女も色々
選択肢が、考えられるだろうと思った。

そして、仕事の作業が全部終わり、飲み会に行った。
いとこの結衣も来るのかと思っていたが、意外にもその日は参加予定ではなかったらしい。
鋼くんと二人で、新宿のゲーセンに寄って何人かと合流し、居酒屋に向かった。

さすがに、王子の友人ともなると顔面偏差値が異常に高かった。
『バイト先の子で、藍衣ちゃん妹みたいな感じで、仲良くなったから連れてきた。』とみんなに紹介してくれたので
コスプレの話などを振ってくれて、話には困らなかった。

私は、小柄だけどかっこかわいい優しいケンちゃんとよく話した。
ケンちゃんはヴィジュアル系音楽が好きで、話がよく合った。

その他にも、美しい和風顔な長髪男子で物腰が柔らかいそらちゃん。
色々話したら、常に優しく面白かったのに、鋼くんいわく『そらちゃんは変態。』
だそうだ。

やたらと顔が濃い、筋肉ムキムキ男前で優しい優弥くんはアングラカジノのディーラーだそうだ。
私が覗いた事の無い、アングラな世界の人なのに、女の子にはものすごく優しい話し方をした。

鋼くんは、ガンガン酒を飲んで陽気に騒いだ。
私も、楽しくていつもより飲みすぎた。
気が付くと、みんなに煽られてなぜか、ケンちゃんと鋼くんがディープキスしていた。
男同士のキスを初めてまじかで見て、びっくりしたが、観察するのは面白かった。
しかも、舌が入っているのを見て、『おえっ』ってならないのかな。
私は、ファーストキスこそ中2で済ませているが、小鳥のキスしかした事がなく
未だ処女だった、異様なノリを観察して色々考えていた。

その日は、終電ギリギリまで飲んで解散となった。
当然、ご近所の私と鋼くんは一緒に帰る。
電車の中でも、鋼くんは終始ご機嫌で、友達の面白い所を教えてくれた。
それから、『藍衣は本当に妹みたい、かわいい。なんか他と違う特別な感じ。』
と教えてくれた。
気が付くと、鋼くんは私を呼び捨てで呼んでいた。
私は、一人っ子だったので『優しいお兄ちゃん』が欲しかった。
だから、鋼くんに妹と言ってもらえたのが、なんだかすごくうれしくて、この関係が続けばいいなぁ、と心から思ったのだった。

駅に着くと鋼が言った
『うちで飲みなおさない?』
まだ、帰りたくないなぁと思っていたので、剣崎邸に寄って行くことにした。
コンビニで、缶ビールや缶酎ハイとおつまみを何本か買うと剣塚邸に行った。

鋼の部屋に着くと飲み物やちょっとしたおつまみを、こたつに出した。
『おれシャワー入ってくる。先にちょっと飲んでて』
テレビを見ながら、飲んで待っていると、出てきた鋼が言った。
『藍衣も入ったら?そこのピ〇チュウーのつなぎ着ていいよ。』
私も、頭を洗いたいと思っていたので、シャワーを借りる事にした。
サッパリして、つなぎを着て出た。
『なにそれ・・・似合いすぎだよ。』
こぶしを縦に口に付けて、ククっと笑われた。
背が小さいせいか、後ろから見ると足がダボついて短く、もろピ〇チューっぽいと
全身を見るため、クルクル回らされた。

二人で色々な話をしながら飲み、限界に酔っ払った。
二人とも、グダグダだった。
『ねみー、もう寝よ。藍衣も帰るの面倒くさいでしょ?ここで寝ちゃいないよ。』

明日は、学校も午後からでバイトも休みだった。
『眠い、おやすみ。』私はベロンベロンに酔って鋼の布団に入り込んだ。
『枕ないから、腕枕をどうぞ。おやすみー』頭をなでられた
鋼の腕枕で、私はそのまま眠りについたのだった。

私は、意外と男女の友情はあるのではないかと思っていた。
だから、鋼の家に泊まった時、キスもなくSEXするでもなく、ただ腕枕で
いびきも気にせず眠った事も、特に深くは考えていなかった。
『この前の飲み会グダグダに酔って、面倒だから鋼と一緒に寝た。枕代わりに腕枕したけど何もなかったんだよ。二人ともべろべろのただの酔っ払いだった。』と馬鹿正直に、バイトの休憩時間にいとこと、当時仲のいい子に話した。

反応は
結衣『ダメだよ!酔っ払ったとはいえいっしょの布団で寝たら。たまたま何もなかったから良かっただけで、軽い女は嫌いだ!』と怒った。
友人『藍衣ちゃんて、もしかして鋼ちゃんが好きなの?好きじゃないのに一緒の布団で寝れないでしょ?』
私『いやー、お兄ちゃんみたいな感じだと思ってるけど。好きなのかなー?そこらへんがまだよくわからない・・・。』
結衣『とにかく!二度としないの!』
私『はい!ごめんなんさい!』
二人は、口が堅いのでそれ以上には広まらなかった。

そうか・・・、私はもしかして鋼が好きなんのか?
そういえば、好きだったヴィジュアル系ギタリストのユキさんのライブにも
気が付いたら行っていなかった。
最近は、七南が調理師専門学校の夜間部に移ったから
なかなか、出かける予定が合わなくなったのも関係している。
うーん、確かに鋼といると楽しいし安心する。
お兄ちゃんみたいで、一緒にいたいと思うけど・・・。
これは恋なのか???答えは出なかった。