「やめて下さい!!!」

夕方の喧騒が過ぎ去ったくらいの時間だった。

安っぽいアパートの廊下とも呼べぬ通路に響き渡った声。

まるで強引な詐欺販売を断るかのような大声。

大声に誰も反応しない静まり返った夜の屋外。

このドアのすき間の原因の主だけが反応している。

男の荒い呼吸。

それが恐怖感を一層引き立てる。

「だのぶがら……りょうしゃんしゅで…」

軽いはずの玄関ドアがたった23cmのすき間を残して閉まらない。

ドアに挟まれた顔はまるでタコのようで。

とがった口からはまともな言葉というものが出てこない。

必死にドアを開こうと、ドアに中に残された主の腕はまるで貞子のように私に向かって伸ばしている。