(ばん)さん、いい加減に提出してください!」

フロアに私の大声が響く。たとえ他の社員にうるさいと言われようと、今日こそ潘さんに書類を提出してもらわなければ。

他部署のフロアに併設された会議スペースで呑気に缶コーヒーを飲んでいる潘さんを見つけた私の怒りは相当なものだ。

「上条さん、そんなに大声出したら喉痛くなるよ」

そう言って潘さんは綺麗な顔をニコニコさせながら缶コーヒーをごくごくと飲み干す。
私の怒りは今日もこの人に伝わらない。

「すぐに領収書を処理しないと間に合わないんです! 潘さんのお給料に反映されません!」

潘さんは領収書や事務処理に必要な書類を毎回期限が過ぎても出してくれない。だからこうして私が潘さんを探して社内を動き回らなくてはいけない。

「じゃあ今日も見つけてくれた賞品です」

そう言うと潘さんはスーツのポケットから丸まった紙の束を取り出した。

「これ全部領収書ですか?」

「そうだよ」

領収書を受け取る私をニコニコと見つめる潘さんを見返す。締め日までに領収書を処理しなくてはいけないのに今回もこんなに溜め込まれていては残業確定だ。

「はあ……こんなにいっぱいじゃ処理するのも大変だよね……」

他人事のような声を私に向ける。

「はあ!?」

悪意を感じるような潘さんの言葉に殺意が湧く。私の声にフロアの空気が凍りつくのがわかった。でもこの怒りを抑えるつもりはない。

「誰のせいでこんなに溜まってしまったと思っているんですか? 毎回毎回お願いしても出してくれないからこうなるんですよ! 潘さんが領収書を溜めたせいで私がどれだけ困るか知ってます? 残業ですよ! 潘さんもお金なくなります!」

いっきに言い切った。それでも潘さんは面白そうに私を見つめる。私がこんなに怒っているのに笑うその顔が苦手だ。