「翔平。翔平。」

誰かが俺を呼んでいた。

誰だ?

「何しに来たんだ?帰れ。」

その声は兄貴か?

「兄さん?待って、どこ?」

俺は暗闇の中でただじっと聞き耳を立てて待った。

「僕のことは心配しなくていい。何もかも自由になった。」

「兄さん、もう一度、もう一度会いたい。」

「翔平、僕は安眠できる場所を見つけた。彼女とね。」

遠くにぼんやりと人影があった。

二人だ。

一人は兄さんだとわかった。

もう一人は誰だかわからないが女だ。

「兄さん、その人、誰?」

「ここで知り合った。そういう運命だった。僕が選んだのさ。」

「兄さん。」

「翔平、愛しいと思える人がいたら他には何もいらない。そうだろ?」

「うん、そうだね。俺もようやくわかりかけてきたところなんだ。」

「良かった。じゃ、もう帰れ。帰ってやれ。」

「うん、わかった。帰るよ。兄さん、いろいろありがとう。」

「気にするな。翔平は僕の自慢の弟だ。直接言えなかったな。ごめん。」

「兄さん。待って。」

再び辺りが暗くなった。

寒い。

とてつもなく寒い。