急に話題が変わり久実はドギマギした。

「それは、いろいろ含めて想っていたわけでして。」

「俺は特定の誰かと付き合いはなかった。常に複数だったな。」

「そうだったんですね。意外です。」

「どうして?」

「先輩を見る女子の目はかなりいたので、私はダメもと覚悟でしたし、初恋でしたので。」

「そりゃ、遅すぎだろ?」

「ひっどい。初恋に年齢は無関係です。じゃ、先輩の初恋はいつでしたか?」

久実は少々むくれた顔で聞いた。

翔平は面白がっているようだ。

「そうだな、幼稚園か、小学校の低学年か。」

「相当ませたガキだったんですね。」

「普通だろ?」

「えーっ!そんな幼い頃に恋がわかるとは思えませんけど?」

「担任の若い先生だ。はつらつとして明るくてきれいでおっちょこちょいな部分があってそこが可愛いとか笑顔でほめてもらったとか、だな。」

「それって、初恋とは言わないんじゃないですか?」

「じゃ、何?」

「単なる好みでしょ。」

「バカ言え、れっきとした初恋だ。」

「違いますよ。」

あーだこーだと初恋話で盛り上がった。

学生時代と違い

一社会人としての自分自身を持っていると

何かと素の部分を隠そうとするが

この最悪の体力維持環境で言い合いができる人間がいるとは

神経が崩壊していると言われても無理ない。

「だから、俺がモテ系だと勝手に決めつけてるからそういう理論になるんだろ?」

「いいえ、何人もの美人に告白されてて無視できるレベルがそもそも自己愛半端ない証拠ですよ。」

「それ、へ理屈ってヤツじゃないのか?」

「やっぱり美人には弱いって鼻の下が伸びてましたよ。」

「その現場を知ってるってのが、ストーカーレベルだろ。」

「冗談言わないでください。」

ますますヒートアップする二人の声が

しんしんと静まり返った山の中に響いた。

「あーもう、なんて分からず屋なのかしら。」

久実が先に音を上げた。

「俺は思うことを素直に言ったまでだ。」

翔平も引っ込みがつかない状況だ。

「とにかく、明日下山したら飲まずにいられないわ。」

「俺は浴びるほど飲みたい。」

「あら、私は一人で飲むの。」

「俺は一緒に飲むとは言ってない。」

「素直じゃないわね。」

「ホントは乾杯したいくせに。」

「それはご自分でしょ。」

「俺は代弁したまでだ。」

「なんですって!」

久実の大声がテントを揺らした。

「おいおい、フクロウが目を覚ますだろ。」

「フクロウは夜行性なのおー。」

一瞬沈黙があり

翔平がいきなり笑い出した。

「ぷっ、アッハッハッハ。」

「きゃははは。」

久実も可笑しくて笑った。