久実の涙ぐんだ目で見られた翔平はさらに困惑した。

「頼むよ。泣くな。」

「先輩、私が見たカップルはお兄さんと彼女さんだったかもしれません。」

今度は翔平が全身に鳥肌を立てる番であった。

ひと呼吸してから口を開いた。

「よく見て、もう一度。」

「はい。」

二人で写真を確かめ

目と目を見合わせただけで通じた。

「ホントか?」

「はい。先輩には見えなかったお兄さんです。」

「どうして俺には見えないんだ。」

「それはきっと、先輩がお兄さんを捜しているからです。この現実の世界で。」

「意味がよくわからない。」

「つまり、あの湖で私が見たのはお兄さんと彼女さんの幻だったかもしれません。」

「幻?」

「強烈な魂は精霊を守る場所に宿ると聞きます。魂は見える人間を選ぶんです。」

「俺は選ばれなかったってことか。」

「そうではなくて、たぶん気持ちの問題だと思います。先輩は生きていた時のお兄さんに固執しているので見えないんです。もう開放してあげてください。そうすればきっと見えると思います。」

「忘れろということか?」

「違います。お兄さんの今の状態を受け入れて、お兄さんの運命を認めてあげればいいだけです。」

「悔しくて悲しくてやりきれない運命をか。」

「それは先輩だけがそう思うことであって、お兄さんとしてはご自分で選んだことかもしれません。」

久実はこれ以上翔平を追いつめない方がいいと思い口をつぐんだ。

二人の呼吸以外に音はなかった。

「考えてみる。それには明日必ず下山だ。」

「はい。」

「ところで、俺のどこが好きだった?」