言うが早いか、くるりと踵を返し、課長が退室していく。その背中からは声がなくとも「面倒事は御免だ」と聞こえてきそうだったし、チラリと見えた顔は想像を裏切らない無能面で、彼が役職を失って平に戻る日はそう遠くないと思えた。
 ……あれが私の上司じゃなくて、よかったよ。
 私の上司は、あんなんじゃないぞ。私の上司はダンディーなおじさまで、ほんの少しのミスが命取りの研究中こそ厳しいけれど、研究室を一歩出ればすごく気さくで……って、あれ? ちょっと待てよ。
 なんで私、こんなところでコスプレのお芝居なんて見てるんだろう。
 たしか、私は念願の子犬を選びにブリーダーさんのところに向かってて……そう、その途中で、私は暴走車に巻き込まれたのだ。
 ……私は、死んでしまったはず。ならば、ここはどこなのだろう?
 課長が消えた扉から目線を外し、おもむろに周囲へと視線を巡らせた。
 その時、肩を落として課長を見送っていた神様一年生と、私の目線が絡んだ。