ここまで二十二年間、立派に育ててくれたお母さんには感謝しかないけれど、彼女の動物アレルギーだけは、何度恨めしく思ったかしれない。モフモフを飼うことはおろか、家族で動物園やふれあい系のカフェに行くことすらできなかったのだから。
 だけどついに、私も社会人となって実家を出た。念願のモフモフライフは、もうすぐそこに――。
 ――ブォォオオオオオ――ンッッ!
「キャァアアアアアッッ!!」
 改造車特有のけたたましいエンジン音と、通行人の空を切り裂くような悲鳴が響いた。
 えっ?と思って振り返った時、言葉では表現し得ない強い衝撃を受けて、私の体が比喩でなく、宙に舞った。初めての浮遊感を覚えながら、死んじゃうんだな、と本能的に悟った。
 不思議だけれど、”死”それ自体を悲しいとは思わなかった。
 反転した視界に青空と、握っていたはずの【今春生まれた子犬リスト】が映る。