……どうやら、私の薬はまた失敗作だったようだ。前回の失敗を教訓にして、半年間の猛特訓を経てのリベンジだった。
 お爺さんは長年痔ろうを患っており、それに伴う痒みを軽減させるために、ママの軟膏を愛用していた。命に係るような症状の患者さんに、私の薬を試すことはできない。だから、半年前の私の薬師デビューに際し、こっそりお爺さんを選ばせてもらったのだが、結果は言わずもがな……。
 だからこそ、今度こそは!と意気込んでいたのだが――。まさか、ひと晩お爺さんを痒みにもんどりうたせてしまったとは、悪いことをしてしまった。
「お婆ちゃん、お爺ちゃんにこれ、渡してあげて」
 私はせめてもの罪滅ぼしに、ポケットから取り出したお気に入りを、お婆さんに差し出した。
「こりゃ、なんだい?」
「匂い袋なんだけど、スーッとした匂いが痒みを和らげてくれるから」
 赤ちゃんの時、ママから香るこの匂いが、背中の痒みを忘れさせてくれた。私はその香草をレースの切れ端で作った小さな巾着に入れて、いつも持ち歩いていたのだ。