周囲には、悲痛なチビドラゴンの鳴き声が反響していた。
 ポカンとして遠ざかる二匹を見上げるフローラの隣で、なぜかベビーピンクのドラゴン殿が冷や汗を垂らしながらガクガクと震えていた。
 そんなこんなで、俺は仕上がった証言証書共々、事後処理を民衆議会の代表者らに託すと、ドリアナ帝国民からの拍手喝采を背中に受けて帰国の途に着いた――。

◇◇◇

 これが、ここに帰り着くまでのおよそ六時間の間に起こった出来事だ。
「……ん」
 突然、腕の中のフローラがむずがるように身じろぎし、くしゃりと顔を苦渋に歪めた。
「おい、フローラ?」
 俺の呼び掛けに、フローラが金の睫毛を震わせて、薄く瞼を開いた。しかし、現れた紫の目と俺の目線が合うことはなかった。
 彼女の目は、俺ではなく、遠いどこかを見つめていた。
「……おばあちゃん、これで少しは罪滅ぼしができたかな? ウィリアムさん、どうか安らかに……」
 彼女は小さく呟くと、眦からひと雫、ツーッと涙をこぼして、紫の瞳をそっと瞼の後ろに隠した。