「馬鹿をお言いじゃないわ。息子の死に涙を流してくれるあなたが、優しくないわけがない。他人の死を嘆き、悼む心は、優しさに他ならないわ。本当に優しさを持たない人間なら、他人の死に涙なんて流さない。……眉ひとつ動かさず、新たな人員を死地へと送る」
おばあさんはドリアナ城がある北東の方角をきつく睨みつけ、重い声音で告げた。今、きっとおばあさんの目には、そこに座すドリアナ皇帝の姿が映っているのだろう――。
「母親のあたしが、止めるべきだったのよ。楯突いて辛酸を舐めさせられようが、全ては命あってこそ。死んでしまったら、なんにもならない。これじゃ、亭主が傍若無人に振舞う皇帝陛下に忠言して不興を買い、処刑台に立った時と同じだわ。あの時も私は、『家族で逃げよう』って喉もとまで出かかっていた。だけど、自分が死ぬことで家族だけは守られると信じ、死んでいこうとする亭主を前に、結局言葉をのみ込んだ。……これじゃあ、死んだ亭主に顔向けができないわね」
おばあさんはドリアナ城がある北東の方角をきつく睨みつけ、重い声音で告げた。今、きっとおばあさんの目には、そこに座すドリアナ皇帝の姿が映っているのだろう――。
「母親のあたしが、止めるべきだったのよ。楯突いて辛酸を舐めさせられようが、全ては命あってこそ。死んでしまったら、なんにもならない。これじゃ、亭主が傍若無人に振舞う皇帝陛下に忠言して不興を買い、処刑台に立った時と同じだわ。あの時も私は、『家族で逃げよう』って喉もとまで出かかっていた。だけど、自分が死ぬことで家族だけは守られると信じ、死んでいこうとする亭主を前に、結局言葉をのみ込んだ。……これじゃあ、死んだ亭主に顔向けができないわね」



