「十日前になるかしら。軍所属の息子が、お国からの指示で諜報部隊員として働くことになったと、顔を出してくれたわ。翌朝には、もう出発すると言っていた。ずいぶんと無理をおして来てくれたことは、すぐにわかった。……もしかするとあの子は、生きて帰れないとわかっていたのかもしれないわね。出がけに空をあおいで『これは神への反逆だ。神の逆鱗に触れる恐ろしい所業だ』とこぼしていたのが、今でも耳にこびりついている」
耳にして、私はおばあさんの優しい温もりから逃げるように、仰け反って叫んでいた。
「違うの! 私は、これっぽっちも優しくなんてないの!」
……スカーレットの言葉を聞いて笑っていた七日前の自分。そして、おばあさんの息子さんの死に、涙する今の自分――。
立場が変われば、百八十度も見方が変わる。あの時の私は、なんて浅はかだったのだろう。
だけどこんな現実は、知らなくてよかった。なにより、……知りたくなかった。
耳にして、私はおばあさんの優しい温もりから逃げるように、仰け反って叫んでいた。
「違うの! 私は、これっぽっちも優しくなんてないの!」
……スカーレットの言葉を聞いて笑っていた七日前の自分。そして、おばあさんの息子さんの死に、涙する今の自分――。
立場が変われば、百八十度も見方が変わる。あの時の私は、なんて浅はかだったのだろう。
だけどこんな現実は、知らなくてよかった。なにより、……知りたくなかった。



