ひかりさんは、ちゃんと分かっていたんだ。


日菜子先輩の嵐が、必要なんだって。


「舞台はまた創り直せばいい。ワンピースだって、私が日菜子に合うように作り直す。あなたが……あなたが、舞台のことを想って、ひと針ひと針縫い合わせたように」


少し懐かしい、湿気を含んだ風がひかりさんの髪を揺らす。


「だから、持って行って。今まで貸してくれてありがとう」


ひかりさんの視線の先には、炎ではなく、のどかさんの姿があった。


いつの間にか開いた窓からは、柔らかな光が差し、のどかさんはその中に佇んでいた。


彼女は涙を流しながら、ゆっくりとワンピースを抱き締める。


笑っていた。


とても、優しい笑顔で。


後ろからは見えないけれど、ひかりさんもきっと笑っているはずだった。


光に透けて溶けていくのどかさんが最後に唇に残したのは、「ありがとう」という言葉と、穏やかな笑みだった。