翌日、まだ陽が登りきらないうちに起こされた。




眠い目をこすりながら、



リビングルームに降りていくと、



無愛想な顔をしたお父さんに呼ばれた。




「今日だけ、ほんの小一時間だけ、真桜だ」




んん?



お父さん、なにを言ってるんだろう?




呪文のような、暗号のような



カタコトを口にするお父さんと



なにやら忙しそうなお母さん。




「お父さんね、昨日の夜に



何度もお断りとお詫びの連絡を入れたらしいんだけど、



おじいちゃんとも相手の九条さんとも、



連絡が取れなかったんですって」




「うん?」




「それで、ちょっと急だけど、



あなたが真桜としてお見合いに行くことになって」




……お見合い?




キョトンとしていると



にっこりと笑ったお母さんに



和室につれていかれてパジャマを剥ぎ取られた。



気がつけば、



お姉ちゃんが着るはずだった薄紅色の振袖に、



帯をぐるっと締められていて。




ええっ⁈




唖然としていると、



髪を結い上げられて、



うっすらとメイクが施されたところで車に乗せられた。




車のなかで目をぱちくりと瞬き。




「あら、素敵! 



これなら彩梅もすぐお嫁にいけるんじゃない?



それに着物だと落ち着いて見えるから、



とても高校生には見えないわ!」




「で、でも、お母さん、



いきなりお見合いなんて、さすがに無理だよっ」




「座ってるだけでいいんだから、大丈夫よ」




お母さんはニコニコしているけれど、



お父さんは朝からとんでもなく機嫌が悪い。




「彩梅はまだ高校生だぞ……⁈」




「あなたが縁談で真桜を縛りつけようとするから、



こういうことになるのよ」




「だからって、どうして彩梅が……!」




お父さんはまだブツブツ言ってるけど



と、とにかく、黙って座ってればいいんだよね⁈



余計なことを言わなければいいんだよね⁈




料亭の前で車が止まったところで、大きく深呼吸。




勢いでここまで来ちゃったけど、さすがに緊張してきた!