【九条side】




「はあ」




「なんだよ、幸せの溜息かよ」




大学近くのカフェで、



レポートをまとめている琉人が顔をしかめる。




「そんなとこ」




「怖えよ、マジで。お前、だれだよ、ホントに」




俺のTシャツだけを着て、



朝飯を用意している彩梅を思い出して目を伏せる。




『ふたりきりなんだから、それでいいじゃん』




まさか、あの一言を本気にするとは思わなかった。




普段、あんなに丈が短い服なんて絶対に着ない彩梅が、



下着の上に俺のTシャツだけを着て部屋を歩き回ってて



……直視できなかった。




「千里、顔、赤いぞ」




「いや、無邪気って怖えな。



無邪気で無自覚って、



理性なんて一瞬で木っ端みじんにされるからな」




「ふーん? いつもの惚気? 



で、なんで最近、シェアスペース来ねえの?」




「あー……」




普段は琉人と一緒に



シェアスペースを使って仕事をしているものの、



彩梅がマンションに来てからは、



ほとんどの仕事を家でこなしている。




「なんで?」




「……なんでだろうな」




「今更隠すなよ、彩梅ちゃんがいるからだろ」




「そうとも、言う」




「可愛くて仕方ないんだな」




「まあな。たまにコタロウに似てるなって、



思うときはあるけど」




玄関を開けると駆けよってくる彩梅を思い出して、



吹き出した。