勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。

九条さんとマンションへと帰りながら、



頬っぺたに手を添える。




「そんなに嬉しいのか?」




「はい、ものすごく!」




コタロウの散歩の途中、すれ違ったひとに



『素敵な彼氏さんですね』と声をかけられて



頬っぺたがゆるみっぱなし!




「高校時代、九条さんが彼氏だったらよかったのにって



思ったことがあって。



でもそれは、私たちから一番遠い言葉だったから……」




「そうだよな、いきなり婚約だ入籍だって、



大騒ぎだったしな。それじゃ……」




右手を差し出した九条さんを、きょとんと見上げる。




「彩梅。好きです。俺とつきあってください」




「あ、あ、あ、」




冗談でも九条さんにこんなこと言われたら、



心臓爆発しちゃうよっ!




「こういうので良かった?」




「は、はいっ!」




どうしようっ、嬉しすぎる……!




「それじゃ、しばらく彼氏と彼女の同棲、ってことにしてみる?」




「同棲⁈」




「ん、同棲ごっこでも、花嫁修業でも、彩梅の好きなように」




甘く笑った九条さんに、ぎゅっと唇をかんで下を向く。




「どした?」




「……九条さんのことが好きすぎて、ちょっと辛い」




涙をこらえて笑って伝えると、



おでこをピンと弾かれた。




「そんな可愛い顔でそんなこと言われたら、



マジで我慢できなくなるから勘弁してくれ」




そう言いながらも、



九条さんはキラキラと甘い笑顔を輝かせていて、



そんな九条さんにまたひとつ、心臓が飛び跳ねた。