スーツケースに荷物を詰め終えると、



険しい顔をしたお父さんがやってきた。



「本当に九条くんと一緒に暮らすのか?」




「『花嫁修業として



九条くんのマンションでしばらく一緒に生活したらどうか』って



おじいちゃんから提案されたとき、



お父さん隣でうなづいてたよね?」




「あれは、対策を講じていてだな……」




「もう決まったことだよ?」




九条家に甘えることなく、



結婚の準備を進めていた九条さんの男気とその手腕に



うちのおじいちゃんがすっかりと惚れこんでしまい、



夏休みの1週間、



九条さんのマンションで花嫁修業させてもらうことになった。




お父さんとお母さんは、おじいちゃんの命令で、



お姉ちゃんのいるアメリカに行くことになり



(おそらく、私の花嫁修業を邪魔しないように)



当然、お父さんの機嫌は猛烈に悪い。




「視察なんて、若手に行かせればいいものを!」




「あら、真桜の顔だって見たいし、私は楽しみよ」




「だからって、どうして彩梅が九条くんと一緒に



暮らさなきゃならないんだ。



もう子供じゃないんだから一人で留守番できるだろう?」




「どうせそのうち結婚して、



彩梅は九条さんに取られちゃうんだから、



いい加減諦めたら?」




「ぐっ……」




無限ループ……




何度、この会話を繰り返せば気が済むんだろう?




がっくりとお父さんが肩を落としたそのとき、



玄関のチャイムが鳴って、お母さんが立ち上がる。