勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。

電車を降りて、



彩梅の家の門が見えてきたところで足を止める。




「ここで帰るな」




「あら、少し寄っていったらいいのに」




「お母さん!」




庭から顔を出した彩梅のお母さんに、頭を下げる。




「九条さん、良かったら家に上がってね。



あの人のことは気にしないでいいから。



意地張ってるだけなんだから」




あっけらかんと笑う彩梅のお母さんの隣で、



彩梅はにこにこと笑っている。




「ごめんなさいね、いろいろ」




「いえ」




言葉をにごすと、



隣ではなにも知らない彩梅がきょとんとしている。




「彩梅、ちょっとお夕飯の買い物行ってくるわね。



九条さん、良かったら少しうちでゆっくりしてね。



彩梅、家にひとりになっちゃうから」




「いや、でも」




「じゃ、行ってくるわね」




強引に家のなかに案内されてソファに座ると、



彩梅が顔を輝かせてパッと立ち上がる。




「九条さん、コタロウのアルバム、作ったんです! 見ますか?」




「へえ、動画?」




「いえ、写真で」




「さすが、彩梅。アナログがよく似合う」




ふてくされる彩梅を期待して、わざと悪態ついてみる。




彩梅は、ぷうっと頬っぺたを膨らませてるけど、



ふてくされた顔も怒った顔もどんだけ可愛いか、



彩梅はきっと分かってないんだろうな。




「アルバム、見ますか?」




「ん、見せて」




そんなに目を輝かせて聞かれたら、断れない。




「部屋にあるので、ちょっと待っててください!」




パタパタと彩梅の足音が響いてしばらくすると、



彩梅の声が響く。




「九条さん、こっちです。二階です!」




「は?」