「千里、ちょっと待ってよ」




高坂の甲高い声が響いて、



琉人が顔をしかめる。




「すげえな、あいつ、アメーバーだな。



もはやホラー映画なみの逞しさ」




「知るか」




高坂を振り切って、



琉人の隣に座るとすぐに資料に目を通す。




「そういえば、千里、



今度の経営セミナーに出席するんだってな。



親父さん絡みのセミナーなんて、



いつもなら絶対に参加しないのに」




「細かいこと気にしてる余裕なんてねえんだよ」




「最近、本格的に親父さんの会社も手伝いはじめたんだろ?」




「ああ」




すると、琉人がにやりと口の端を上げる。




……こいつ、全部分かってて聞いてるよな。




可愛い顔してんのに、ホントいい性格してる。




「それって、彩梅ちゃんのためなんだろ? 



うまくいってんだ?」




「相変わらず彩梅がバカすぎて、目が離せない」




「くくっ、つまり、可愛くて手放せないってことだろ」




「そんなこと、一言も言ってない」




「お前の恋心を翻訳してやったんだよ。



ま、たしかに危なっかしいよな。



でも、可愛いじゃん。



つうか、あの子なら見合いなんてしなくても、



すぐに彼氏できそうだけどな」




楽しそうに笑う琉人をじっと見つめる。




「……お前、やけに彩梅のこと気に入ってるよな?」




「俺にまで牙むくなよ。余裕ねえな。



いつものクールな千里はどこに行ったんだよ?」




「うるせ」




「あのさ、マジで気に入ってるなら、



さっさと婚約なり入籍なりしちゃったほうがいいんじゃね」




「は?」




「あの子さ、あと数年もしたら奪い合いだぜ。



お家教育も行き届いてるし、



育ちの良さも見た目も極上ものだし」




「変な言い方するなよ。



彩梅なんて、まだまだガキだろ。



ぼんやりしてて、危なっかしくて目が離せないだけだよ」




「そんな余裕かましてると、彩梅ちゃん奪われちゃうかもよー」




「バカらしい」




面白半分で冷やかしてくる琉人に呆れて、別の資料を手にとった。