勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。

すると、パタパタと軽やかな足音が近づいて、



萌ちゃんの大きな声が響き渡る。




「ごめんごめん、遅くなった! 



彩梅、こんなところにいたんだね! 


メッセージ送ったんだけどつながらなくて。



……あ、ごめん。お取込み中だった?」




び、びっくりした!




ぱっと一歩離れた九条さんは涼しい顔をしているけれど、



私はもうドキドキしすぎて、



息もまともに出来ません……!




「あれ、彩梅、もしかして、そのひとが?」




「あ、あの、九条千里さん……です」




すると、瞬時に背筋をびしっと伸ばした萌ちゃんは、



勢いよく腰を90度に曲げて九条さんに頭をさげている。




さすがラクロス部キャプテン!




お辞儀まで、素早い、凛々しい、かっこいい!




「初めまして、大河内萌花です。



いつも彩梅がお世話になっています!」




「九条千里です」




落ち着いた素振りで九条さんが軽く会釈すると、



萌ちゃんが目を丸くする。




「うっわー! なるほどね! 



そっか、そっか、納得したよっ! 



これは仕方ないねっ」




「も、萌ちゃん?」




さっぱりしていて面倒見のいい萌ちゃんは、



思っていることをそのまま口にしてしまうところがあるので、



こんなときには、ちょっとだけヒヤヒヤする。




「彩梅が5つも年上のおじさんと婚約なんて、



もったいないなーって密かに思ってたんだけどさ、



こんなにかっこいい人だったら納得! 



そりゃ、男子高校生なんて目に入らないよね」





「……男子、高校生?」





ぴくりと眉をあげた九条さんが、



なんだか怖い。




「彩梅ったら、



駅で告白されても全部断っちゃうんですよ!」




「も、萌ちゃん⁈」




「この前だって、



この大学の付属高校の男子にガチ告白されたのに、


あっさり断っちゃったでしょ。もったいないっ!



今年に入って何人目?」




「へえ……そんな話、聞いたことないけどな」




九条さんにジロリと睨まれて、体をすくめる。




うう……、



九条さんの顔、ものすっごく怖いです。