カーン。




流れる水の重みで頭をさげた竹筒が、



勢いよく岩に打ち付けられて高い音を響かせる。




鹿威し、っていうんだっけ。




その高く澄んだ音に目を伏せる。




離れになっている料亭の一室で、



お父さんとお母さんに挟まれて座り、



正面に座っているその人をちらりと覗き見る。




まさか、さっきのひとが、



お姉ちゃんのお見合い相手だったなんて!




きりっとした眉に柔らかな眼差し、



すっとした鼻筋に薄い唇。



爽やかで端正な顔立ちの、すごくキレイなひと。




「九条千里です」




その低い声に顔をあげて、背筋をただす。




「はじめまして。西園寺 ……真桜です」




ごめんなさい、ホントは彩梅(あやめ)です……と、



心のなかで謝りながら。




「それにしても、西園寺さんに



こんなにお美しいお嬢さんがいらっしゃったなんて!」




「いやいや、九条さんこそ、



立派なご子息で羨ましいかぎりです。



それよりこの間の件ですが、国会でも……」




お父さんたちが仕事の話を始めたのを聞きながら、



もう一度、向かいに座っている九条さんをちらり。




相手の九条さんは、



お父さんたちの話に興味深そうにあいづちを打っていて、



時折、会話にも加わっている。




お母さんによると、九条さんは23歳の大学院生。




話し方も物腰もすごく大人っぽくて、



なんだか別の世界のひとみたい。




九条さんのまわりだけ、キラキラと輝いている。




さっきからお父さんたちの話題に上っているのは、



株価の話だったり、



新しく設立する財団法人の話だったり。




黙って座っている私は、もはや置物。



これじゃ、



部屋の片隅に置かれている花瓶と何も変わらない。




「それでは、今日は顔合わせということで、



少し時間は早いですが、そろそろ……」




挨拶をして10分も経たないうちに、



お父さんがそう口にして立ち上がった。




え、もう終わり?




目をぱちくりさせていると、



九条さんにキラキラの笑顔を向けられて



ドキリ。




恥ずかしくなって目をそらすと、



九条さんがなにやら不穏なことを口にする。




「せっかくお会いできたので



もう少し真桜さんとのお時間を



頂戴してもよろしいでしょうか」




……へ?