「みくる、どう言うことだ?」

「よく考えたんですけど、社長との個人契約は
無理があるのではないかと考えました」

みくるは俺と目を合わそうとしなかった。

「社長って俺との距離を置きたいって事」

みくるは黙ったまま答えようとしなかった。

「海堂慎とはどう言う関係なの?」

「どう言うって、海堂社長は私の新しい雇い主です、とても優しくして頂いてます、海堂社長のお宅にお世話になるつもりです、一緒にいると心が落ち着きます」

「新しい雇い主って、もう決めたの?俺との契約はどうなるんだ、一緒にいると心が落ち着くって好きになったって事?」

「そうかもしれません、社長との契約はお断りします」

みくるの言葉に俺は心が折れそうになった。

「わかった、契約の事は諦めるよ、でもみくるのことは諦めないから」

俺はみくるを引き寄せ抱きしめた。

「みくるの気持ちを取り戻して見せるよ」

この時みくるが俺に対して、偽りの気持ちを言っていたことなど知る由もなかった。

みくるは平野に言われて、俺の将来のために身を引いたのだ。

母の二の舞を踏んではいけないと思いながら、みくるに接してきたのに、気づいてやる事が出来なかった。