「みくる、結婚しよう、お前は俺だけのものだ」

「私はあなたに相応しくありません」

「そんなことはない」

「あなたは九条家の御曹司です、九条リゾートホテルの社長です、その立場に相応しい方と結婚しなくてはいけません」

「俺の立場に相応しい?」

「そうです、私は生まれも育ちも上流階級のあなたとは差があり過ぎます」

俺は上流階級の育ちじゃない。
三十を目前に結婚を急かされて、何度か見合いをしたが、まったく噛み合わない。

そんな時俺の身の回りの世話をするため、雇い入れたのが冬紀みくるだった。

とにかくみくると居ると落ち着く。
食事も高級ホテルのディナーより、チェーン店の牛丼をかきこむ方が好きで、服も高級ブティックよりはアウトレットでセール品を買う方が性に合ってる。

そう、俺は元々上流階級とは程遠い生活をしていた。
九条家の御曹司として生まれ育ったわけではない。

俺の運命を大きく変えた出来事が起こった、それは半年前にさかのぼる。