——パシンッ。


乾いた音が、マンションの廊下に響いた。

あまりの迫力に思わず口に手を当てる。


おーちゃんの頬に見事な平手打ちを食らわせた彼女は、持っていた男物の鞄をわたしに押し付けた。

そしてもう一度、ものすごい剣幕でおーちゃんに向き直り、吐き捨てるように言った。


「最っ低!」


ふん、と背を向けて、ふわふわな栗色の髪をなびかせながら、キレイな女の人はさっさと帰ってしまった。


その逞しい後ろ姿に呆気にとられていると、


「……いてえ」


赤くなったほっぺに手を当てているおーちゃんが、弱々しく呟いた。


——この、酔っ払いめ……。