ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


と思って体を固くしたのもつかの間、おーちゃんの手はわたしの横をすいっと通り過ぎて、サイドテーブルの時計に触れた。


「……」

「なに。今日はお前、こっちで寝たいの?」


目覚ましをセットしながら聞かれて、浅はかな期待が打ち砕かれる。

わたしは、大人しくベッドから降りた。

ふ、と鼻で笑われる。


「……キス、されると思った?」


ベッドの上から、いじめっ子の表情で首を傾げられ、わたしは慌てて顔を背けた。


「意地悪」

「……そんな警戒すんなよ。もうしないから」


ガツン、と鈍器で殴られたような気分。


……そういう意味で、言ったわけじゃないのに……。


密かにショックを受けながら、床の隅にたたんである敷布団を引っ張って準備する。

おーちゃんは元々ひとり暮らしだから、当然ベッドもひとり用のセミダブル。

わたしがこっちで寝泊まりするようになって、わたし専用のお布団を用意してくれた。

「俺が布団で寝るからベッドで寝ていいよ」というおーちゃんの優しさを、さすがにそれは、と断って、こういう形になったんだ。