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パタン、と後ろでドアが閉まると、あたりが闇に包まれた。
すぐに廊下の電気がつけられる。
革靴を脱いで、いつも通りに部屋の中へと進んでいったおーちゃんは、途中で、玄関で立ち止まったままのわたしを振り返った。
「なにしてんの」
おかしそうに笑われて、慌ててローファーから足を引っこ抜く。
「た、ただいま」
ぎこちなく言ってから、ソックスで廊下へと踏み出した。
緊張の一歩。
ピンと背筋を伸ばして、いつもよりおしとやかに、丁寧に歩くわたしは、完全におーちゃんを意識していた。
……よく考えたら、あんなことをした後で、家でもふたりっきりなんて……。
つい唇に手が伸びて……、ハッとして、手を下げる。
リビングまでくると、上着を脱いでいるおーちゃんがちょっとだけ意地悪な顔でわたしを見て、「おかえり」と言った。
……バレてる。
意識しているのも、緊張しているのも、すべて見透かしている顔だ。
悔しい……。
「早く風呂入って来いよ。明日も早いだろ」
「うん」
わたしは精一杯普段通りを装って、さっさと寝る支度を始めた。


