「帰ってこねえし、電話でねえし……何時だと思ってんだよ」


——21時。


慌てて携帯を確認したわたしは、ハッとした。

少し前から、おーちゃんからの着信が3件入っていた。


全然気づかなかった……。


「なにしてたんだよ、こんなとこで」


口調は落ち着いているけれど、しっかりと怒りの色を感じ取れる問いかけに、わたしは目を伏せた。


「なにもしてない」


間違ってはいない。

ただ座ってただけだから、本当のことだ。

わたしの答えを聞いたおーちゃんは、大きなため息を吐いた。


「……とりあえず、帰るぞ」


手首を掴まれる。

駅に向かおうとするおーちゃんに、わたしは首を振った。


「……や。帰らない」


足をその場にピッタリ貼り付けて、引っ張る力に抗う。


「愛花」