「——この、ばかっ」
すごい力で後ろに引き戻されて、体制を崩した。
お兄さんの手がわたしの腕からはがれる。
そのまま後ろに倒れそうになったわたしを、誰かがしっかりと抱きとめた。
「ああ。待ち合わせしてたんだ……残念」
わたしの後ろを見て、気だるげにそう呟いたお兄さんは、すぐに興味をなくしたようにどこかへ行ってしまった。
「おい」
聞こえてきた声は、普段の数倍低く、棘を含んでいるもので。
わたしはビクリと肩を揺らして、振り返った。
「お前、なに考えてんの」
「……おーちゃん」
——なんでここに。
そう声に出そうとしたわたしだったけれど、向けられた咎めるような厳しい目つきに萎縮して、静かに口を閉じた。


