「ねえ、名前はなんていうの?」


覗き込まれ、わたしはハッと現実に戻された。


「……愛花、です」

「あいかちゃん。可愛い名前!」


顔の前で手を合わせて、お姉さんはふわりと微笑んだ。

そして、腕時計に視線を落として、「いけない」と思い出したように口を開く。


「これから会社に戻らなくちゃいけないの。今度、またゆっくりお話ししたいな……それじゃ、またね」

「はい、……また」


ぎこちなく笑みを浮かべて、手を振るお姉さんにお辞儀をした。

なんとか平静を装えたわたしは、すぐに扉に逃げ込んで、後ろ手に鍵を締める。

足に力が入らない。

そのまま、へたりとしゃがみこんでしまった。


——嫌だ。

仲良くなんてできない。

妹だなんて思われたくない。

……好きで7つも年下に生まれたんじゃない。

わたしは、こんなにもおーちゃんのことが好きなのに——、


「……おーちゃんは、あの人が、好き……?」


ひとりきりの空間、わたしは震える声で、頭の中に浮かんだ恐ろしい予感を口にした。