ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「こ、こんにちは」

「こんにちは」


戸惑ったわたしは、当たり障りのない挨拶をした。

お姉さんは優しくはにかむと、少し間を置いて、なにやらもじもじと続けた。


「……あの、この間はごめんなさい。わたし、酔ってたみたいで……」


恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ぺこりと頭を下げられる。

その様子は、あの夜の逞しいお姉さんと同じ人だとはとても思えないくらいに、可愛らしい。

それに、お姉さんが動くたびに、ふわりといい香りがする。

なぜか女のわたしまでドギマギしてしまっていると、


「妹さん、なんだよね」


——え。


「樫葉くんから聞いたの。わたし、変な早とちりしちゃって……」


——おーちゃん、本当にそう説明したんだ。

わざわざこの人の……誤解を解くために?


くらり、と目眩がした。


「それで、この前のことは忘れてくれると嬉しいなって……。変なやつだと思ったかもしれないけど、わたし、できればあなたとも仲良くしたいの」


そう続けるお姉さんの鈴のような声を、わたしは、どこか遠くで聞いていた。