「こ、こんにちは」
「こんにちは」
戸惑ったわたしは、当たり障りのない挨拶をした。
お姉さんは優しくはにかむと、少し間を置いて、なにやらもじもじと続けた。
「……あの、この間はごめんなさい。わたし、酔ってたみたいで……」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ぺこりと頭を下げられる。
その様子は、あの夜の逞しいお姉さんと同じ人だとはとても思えないくらいに、可愛らしい。
それに、お姉さんが動くたびに、ふわりといい香りがする。
なぜか女のわたしまでドギマギしてしまっていると、
「妹さん、なんだよね」
——え。
「樫葉くんから聞いたの。わたし、変な早とちりしちゃって……」
——おーちゃん、本当にそう説明したんだ。
わざわざこの人の……誤解を解くために?
くらり、と目眩がした。
「それで、この前のことは忘れてくれると嬉しいなって……。変なやつだと思ったかもしれないけど、わたし、できればあなたとも仲良くしたいの」
そう続けるお姉さんの鈴のような声を、わたしは、どこか遠くで聞いていた。


