家までへの帰り道、薄情なことにわたしの頭の中は、康晴との出来事ではなく、今日の夜ご飯のことでいっぱいだった。

ひとりで食べるのは久しぶりで、少し寂しい。

何かを作る気も起きなければ、何を食べたいのかも浮かんでこなかった。


途中でコンビニに寄り道をして、適当にご飯を買ってから、マンション『マトリカリア』に到着する。

3階まで上がって、鞄の中から、ふたつある内の片方の鍵を取り出した。

302号室から、タイミングよく人が出てくる。
お互いに軽く会釈をして、すれ違った。

その隣の303号室も通り過ぎて、304号室——わたしは、足を止めない。

自分の家の前をも通り過ぎて、端っこの、305号室の扉に鍵を差し込んだ。
ガチャ、と音が鳴る。

当たり前のように扉を開けて、当たり前のように足を踏み入れて。


「ただいまあ」


誰もいない部屋に向かって、わたしは当たり前のように呟いた。