ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「……逃げた」


おかしそうに言うお姉ちゃんにつられて、わたしも思わずクスリと笑う。


「……それじゃあ、話は聞いたんだ。おーちゃんの家に残ることにした?」

「……うん……」

「よかったね、愛花」


微笑まれて、わたしは返答に迷ってしまった。

ここに来る途中で、おーちゃんがわたしを引き続き預かりたいと、お姉ちゃんと叔母さんを説得したことを聞いた。

「話をつけてきた」とは、このままわたしがおーちゃんの家で暮らすことの許可をもらってきた、という意味だったらしい。

わたしは曖昧な笑みを浮かべたまま、視線を流した。

——机の上に置かれたままの、紙袋が目に留まる。

わたしの視線の先に気づいたのか、お姉ちゃんは苦笑した。


「……これ、せっかく愛花が持って来てくれたけど、ごめんね。……渡さなかったんだ」

「……」

「おーちゃんのこと、……わたしに譲るつもりだった?」


わたしは、体を小さくして、頷いた。