ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



わたしを引っ張る力を緩めると、手すりを掴んだ方の手を剥がされ、両手を塞がれる。

向かい合う形で立ち止まった康晴は、伺うようにわたしを見下ろした。


「……じゃあ、俺と逃げる?」

「……」

「愛花があの人から逃げたいなら、……今度こそ、俺がつけこむチャンスってわけだろ」

「……それは……」


どう答えていいかわからずに、目を泳がせる。

そんなわたしを見て、


「……なあんてな」


康晴はいたずらに笑うと、パッとわたしから手を離した。


「お前の気持ちも、わからなくもないよ。……ただ、このまま逃げるだけってのは、よくない」

「……康晴……」