カチャリ、とスプーンを置く。
窓の外から、また鳥の鳴き声が聞こえてきて、俺はそっと息を吐いた。
ひとつひとつの音が、やけに大きく耳に届いてくる。
朝の静けさというものを感じたのは、随分と久しぶりな気がした。
この1年間、目を覚ますと、すぐそこには愛花の姿があったから……。
瞳を閉じたままの暗闇に、今度は昨夜の出来事が蘇る。
一方的に告げられた言葉は、簡単に納得できるような内容ではなかったし、……納得する気なんて、さらさらなかった。
それに……。
あいつはやっぱり、わかりやすい。
隠すように、喉元に手を添える仕草——愛花が何か隠し事をするとき、決まってやる癖だ。
『必死に背伸びしてるのに、樫葉くんまで大人であろうとしたら、愛花ちゃんはもっと背伸びをしなくちゃいけなくて、すごく疲れることになる。もう少し、歩み寄らなくちゃ——』
頭の中で響く、いつかの声に耳を傾けながら、……俺の考えは、ようやくまとまった気がした。