「……作ってたら、お腹いっぱいになっちゃった。やっぱり、今日はご飯いらないや」


おーちゃんに遮られないよう、早口でまくし立てる。

できるだけ明るい口調を心がけた。


「……それじゃあ、……本当に今まで、お世話になりました」


心からの感謝を言い残すと、わたしは、返事を待たずにリビングを後にした。

この間整理したときのままにしていた荷物を、ババッと抱える。

玄関へと進み、靴を履いた。


ドアへと手を伸ばそうとして——、わたしは思い出して、鞄の中を探った。

ふたつの鍵の内、片方を取り出した。

キーホルダーを外し、玄関の棚に銀色のそれを置いて、わたしは今度こそ、ドアを開ける。

マンションの廊下に出て、ドアが閉まりきるまで、……おーちゃんは、今度はわたしを引き止めたりはしなかった。


304号室に入ると、真っ暗な室内に、たまらず涙がこぼれた。


……これで、いいんだ。

……これで……。


わたしは荷物を廊下に乱暴に下ろして、お姉ちゃんの部屋へと足を踏み入れる。

扉の裏に置かれた紙袋に手を伸ばした。


……明日、これをお姉ちゃんのところに持って行こう。

そうすればきっと、……お姉ちゃんの想いは、やっと、おーちゃんに届くことになるんだ。