ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「え……」

「……愛ちゃんはまだ、あのマンションから離れたくないの?」

「……それは……」


——考えたこと、なかった。


わたしは、言葉に詰まってしまった。

慎くんの質問から逃れるように、目を泳がせる。


……あのマンションにわたしがこだわった理由は、お父さんとお母さんの思い出から、離れたくなかったから。

叔母さんたちにワガママを言って、ふたりで暮らすことを許してもらった。


だけど、今は……?

おーちゃんと出会って、前に進むことができて、3人の時間が楽しくて……。

お姉ちゃんが入院して、おーちゃんとふたりになって……。


今はほとんどおーちゃんの部屋で生活しているわたしが、あのマンションに、こだわる理由は——。