「——いか、愛花」

「ん……」

「もう着くぞ」


肩を揺らされる感覚に、わたしは身をよじる。

重たい瞼を何度か瞬かせると、自分がバスの中にいることに気がついた。

目をこすりながら、お姉ちゃんのお見舞いの帰り道であることを思い出す。

どうやら揺れの心地よさに、我慢できずおーちゃんに寄りかかって眠ってしまっていたみたいだ。

こちらを見下ろしているおーちゃんが、わたしの口元に触れた。


な、なに……?


不意の出来事にドキリとして、


「よだれ」

「……え、嘘っ」


慌てて口元を隠すと、おーちゃんはニッ、と笑顔を浮かべた。


「嘘」

「……」


……ドキッとして、損した……。


わたしはおーちゃんに抗議の目を向けながら、一応、口元を丁寧に拭った。