「待って、こうせ——」
「嫌だ」
きっぱりと言った康晴は、目を伏せてふう、と息を吐いた。
握られている手が、とても熱い。
康晴が、もう一度こちらを見る。
柔らかそうな前髪の間から、少し上目遣いな熱っぽい瞳が、わたしを捉えた。
「……俺は、愛花が他の誰かに取られんの、やなんだよ」
「……っ」
ガタン! と大きな音を立てて、わたしは立ち上がった。
驚いた康晴が手を離す。
その隙に、わたしは荷物を乱暴に鞄に押し込むと、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら康晴を見た。
「わたし、……好きな人、いるから」
「……え」
「だから、ごめん……っ」
なんとかそう伝えると、逃げるように背を向ける。
一瞬だけ見えた、康晴の傷ついたような顔を振り切るように、わたしは教室を飛び出した。