「送ってくれてありがとな。病院には、明日連れてくよ」

「お願いします。……それじゃ、俺はこれで」


ホッとしたように頭を下げて、俺の横を通り過ぎる。

エレベーターの中に消えていく後ろ姿を、俺はその場で見送った。


……爽やかなやつだな。


礼儀正しく、見るからに好青年だという印象のソイツに、勝負なんてしていないのにも関わらず、なんだか敗北した気分になる。

いつだったか、杉本さんが言っていた『若さには勝てない』という言葉を思い知った。

俺は気を取り直して歩き出し、304号室のドアに手をかけた——。


「康晴、待って……!」


俺が力を入れる前に、目の前のドアは勢いよく開かれた。

中から飛び出してきた愛花とぶつかりそうになる。

俺に驚いて、小さな体が倒れそうになるのを、その腕を掴んでなんとか支えた。


「っぶね」


足を怪我してるってのに、何やってんだ、こいつは……。


こちらを見上げた愛花が、「あ」と声をこぼした。