向こうから歩いてくる男子高生の姿を認識したとき、俺は思わず足を止めてしまった。

見覚えのあるその制服は、愛花と同じ学校のもの。

そして、マンションの廊下で立ち尽くす俺に気づいてこちらを見上げるその顔にも、見覚えがあった。


「……愛花の、お兄さん」

「……どうも」


そういえば、そんなことになってたっけ。

前に、高校まで愛花を迎えに行ったときに交わした会話に、思考を巡らせた。

その後に、次第にこいつがここにいる状況に、じわじわと焦燥感が湧き上がってくる。

きっと、愛花と一緒に帰ってきたのだろう。


「あの。……愛花のやつ、今日の体育祭で、足を捻って」

「え」

「本人は大丈夫だって言ってるけど、結構腫れてたんで、病院に行かせた方がいいと思います」


——言われなくても。


声になりかかった言葉を、焦れた思いと一緒に飲み込んだ。

……こいつは単に、愛花を心配して言ってくれているのだから。