しばらくして、諦めたのか、愛花がコクコクと頷いた。

手を離すと、柔らかいほっぺたが元の膨らみを取り戻す。

けれど、下唇は突き出たままだった。


「まだ、不安?」


いじけるように主張をしているそこをつつくと、すぐに引っ込んだ。

質問の答えを迷うように、愛花の瞳が揺れる。


……もどかしいな……。


伝えられない想いを視線に込めて、じっと見つめた。

それを感じとってくれたのか、そうじゃないのかわからないけれど、愛花がゆるゆると首を振った。

俺は、愛花の前髪をさらりとどかすと、おでこにそっと唇を寄せる。


……今はこれで、許してほしい。


「おやすみ」


……ごめんな。

こんな中途半端なこと、するべきじゃないって、頭ではわかってる。

いつか、言える日がきたら、ちゃんと言葉にするから、……そのときまで……。


回した腕に少しだけ力を込めると、愛花の微熱のような体温が伝わってきた。


……そのときがくるまで……俺も頑張るから。

今はもう少しだけ……、この甘い熱に、浮かされていたい。