ところが、愛花は根っこが生えたように、その場から動かない。
「……や。帰らない」
イヤイヤと首を振られて、頭が痛くなる。
「愛花」
「帰りたくない」
駄々をこねる姿に、どうすればいいかわからず、困り果てた。
「……子供じゃないんだから」
お前らしくない——。
つい口をついて出たその言葉に、愛花がひどく傷ついたような顔をした。
俺を見つめる瞳が、じわりと潤みを帯びて——、
「——そうだよ。わたしはもう子供じゃない!」
訴えるように声を上げた愛花が、俺の手を振り払った。
その衝撃で、ポロ、と涙がこぼれ落ちるのが見えた。
向けられる泣き顔に、俺は行き場を失った手をそのままにして立ち尽くしてしまった。


