ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「帰ってこねえし、電話でねえし……何時だと思ってんだよ」


俺の言葉に、愛花は思い出したように携帯を取り出す。

ハッとしたようなその表情に、やるせない気持ちになった。

俺がどれだけ心配していたかなんて、ちっとも考えていなかったような反応だ。

安堵が、怒りや苛立ちへと変わっていく。


「なにしてたんだよ、こんなとこで」

「……なにもしてない」


目を合わせずに答える愛花に、深くため息をついた。


……いったい、なにがどうしたっていうんだ。

突然、こんな反抗的になるなんて。


「……とりあえず、帰るぞ」


話はそれからだ。


愛花の手を取って、俺は駅の中へと歩き出そうとした。