萩原に愛花のことを話したということは、少なくともあの夜の出来事を覚えているということだ。 俺は杉本さんと対角線上の端っこに立ち、なるべく息を殺した。 扉が閉まり、空間がふたりきりのものになる。 「……ほっぺ、痛かった?」 声をかけられて、心臓がぴくりと跳ねた。 まさか、さっそくその話題を振られるとは思っていなかった。 「いや、まあ……」 「あのときは、自分で思ってたより酔ってたの」 「みたいですね」 ははは、と笑いをこぼすと、杉本さんがこちらを振り返った。