「……なあ、ほんとに、私立は受けなくていいの」

「うん」

「1校くらい、滑り止めに——」


愛花が顔を上げてこちらを見た。

言いかけた俺に向かって、ム、と唇を引き締める。 


「お金かかるでしょ」

「まあ……」

「受けるのにもお金かかるし、もしわたしが私立に通うことになったら、もっと……。どうせ通うのは難しいから、受けない」

「でも」

「いいの。……志望校に、絶対受かればいいだけなんだから」


言い切った愛花に、俺は胸を突かれたように、なんの言葉も返せなかった。

ノートの上を滑るシャーペンの音が、雨粒の音に混じって、部屋に響いている。