——思いを自覚したきっかけなんて、些細なものだったと思う。


知り合って何年か経ち、頻繁にお互いの家を行き来するようになってしばらく、俺はバイトで忙しい結花に代わって、中学3年生になった愛花の勉強をよく見てやっていた。

高校受験を前に、愛花は少し心配になるほど熱心だった。


「……もう遅いし、そろそろ終わりにしたら」

「明日お休みだから、もうちょっと」


向かいに座る愛花はこちらにつむじを向けたまま、ペンを走らせる手を止めなかった。

俺はテーブルに頬杖をついて、その様子をじっと眺める。

外はあいにくの雨だった。

けれど、窓を叩く雨粒の音が、かえって愛花の集中力を高めているのかもしれない。


……優等生だなあ。


当たり前のように勉強することが好きではない俺は、ぼんやりと感心した。

これまで愛花の成績表を見せてもらってきたけれど、結果は毎回とても良かった。

推薦入試も受ける予定だと聞いている。

志望校は、近くの公立高校だ。