でも、この反応は——、愛花の中で、あいつは男として意識されていないってことだ。
さきほどの兄かどうかの質問も、自分の好意が一方通行であることを知っているからこそのものだったのだろう。
「そういうことか」
こんな簡単なことでモヤが晴れていく胸の内が、心底おかしく思えた。
「ねえ、なにが? ちゃんと教えてよ」
「ひみつー」
思わず緩む口元をそのままに、俺は隣でむくれる愛花を盗み見た。
……大丈夫。
急がなくていい。
大事にしたいからこそ、今は、堪えるべきなんだ。
言葉にしなくたって、一緒に過ごしてきた長い時間が、ふたりを強く固く繋いでくれているはず。
俺はすっかり落ち着きを取り戻した心に安堵して、結花の眠っている病院へと、足を進めた。