ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



「ちょっと、杉本さん……」

「……上まで付いてく」

「……」


俺は天を仰いだ。


……仕方ない。

諦めて、開き直ることにしよう。

……こうなったら最後の手段を使うしかない。


いずれにしても俺には、杉本さんを家にあげるという選択肢はないのだから。

自分の部屋の前までやってくると、俺は迷わずインターホンを押した。


「あの、樫葉くん、一人暮らしでしょ? チャイムじゃなくて、鍵を——」

「んや、大丈夫なんで……」


不審がる杉本さんをなだめながら、俺は目の前のドアが開くのを待った。


「なにが大丈夫なの、もー」


杉本さんが我慢できないというように俺の手から鞄を奪った直後、ガチャリ、と鍵の開く音がして、ドアが開いた。